保険老後

介護費用はどれくらいかかる?公的介護保険について知ろう(前編)

最近、老後には2000万円必要!?という報告書について色々なメディアがそれを取り上げ話題になりました。かなりの人々が「老後の資金」に関心を持っているのがよくわかります。
そんな老後資金の中でも「介護費用」については、制度が難しい、目安がわからない等イメージがしにくいと思われます。今回は介護費用について、勉強してみましょう。

介護費用についてどう感じている?準備状況は?

生命保険文化センターの調査によれば、自分が将来要介護状態になった場合、不安感があると答えた人は90.6%にものぼり、その不安の内容で多かったのは、「家族の肉体的・精神的負担」が67.9%、「公的介護保険だけでは不十分」(60.4%)、「家族の経済的負担」(57.9%)と、経済的に不安を持つことが多いということがわかります。
しかし、実際の経済的な準備状況は「準備している」が47.8%、「準備していない」が49.2%とほぼ半々で、準備意向がある人が多い(74.0%)ものの実際にはなかなか準備が進んでいない状況です。

また、自分自身が要介護状態になった場合の介護費用をどのように賄っていこうと考えているかという調査では、一番多かったのが「公的介護保険」で76.9%と、以下「預貯金」、「公的年金」、「生命保険」と続きます。
公的介護保険に不十分ではないかとの不安を抱きつつも、頼るところは大きいと考えられます。

公的介護保険のあらまし

公的介護保険は2000年(平成12年)に介護保険法が施行されたことによりスタートしました。現在のサービス利用者数はスタート時に比べ3.2増加しており、介護制度として着実に定着してきています。

● 被保険者

公的介護保険に加入し、被保険者となるのは40歳以上の人です。被保険者になると保険料を負担し、要介護状態になれば介護サービスを使うことができるようになります。
被保険者は年齢別に第1号被保険者、第2号被保険者に分かれていて、保険料負担や利用の条件が異なります。

≪ 第1号被保険者:65歳以上 ≫

保険料 ・ 市町村が条例で決める基準額に所得の割合を乗じた額
・ 公的年金から天引されるか納付書、口座振替で納付する
サービス ・ 要介護状態になった原因を問わずサービスを利用できる

≪ 第2号被保険者:40歳~64歳 ≫

保険料 ・ 会社員や公務員は、月給と賞与に医療保険者の定める保険料率をかけた額
・ 国民健康保険加入者(自営業など)は所得等に応じて市町村が定めた額
・ 健康保険料に上乗せする形で徴収される
サービス ・ 要介護状態になった原因が初老期における認知症など16種類の特定疾病にかぎりサービスを利用できる
・ けがや16種の特定疾病以外の病気で要介護状態になっても利用できない
● サービス利用の流れ

公的介護保険のサービス利用の流れを簡単に説明します。

申請  市町村の介護窓口に申請書を提出する
 
要介護認定の調査・判定  訪問調査・一次、二次判定等がある
 
認定・通知  判定結果により、要介護度や非該当である等認定される
 
ケアプラン作成  介護サービス計画をケアマネージャーと相談し、作成する
 
サービス利用  ケアプランに基づいてサービス利用手続きの後、サービスを開始
 
更新  要介護・支援認定には有効期限があり、更新が必要
 期間内に状況に変化があった場合認定の変更申請も可能

公的介護保険サービス利用の費用負担

公的介護保険の介護サービスには、在宅サービス、地域密着型サービス、施設サービスがありサービス料金には細かく単価が決められています。そして、利用者はかかった費用の1割~3割を負担し、残りは市町村が事業者に支払うという仕組みになっています。(40歳~64歳は一律1割)

この負担割合は所得に応じて下記のように決められており、
・ 1割負担:年金収入等 280万円未満

・ 2割負担:年金収入等 280万円以上 
※ 単身世帯の場合。夫婦世帯の場合は346万円以上。
※「合計所得金額160万円以上」かつ「年金収入+その他合計所得金額280万円以上」
・ 3割負担:年金収入等 340万円以上
※ 単身世帯の場合。夫婦世帯の場合は463万円以上。
※「合計所得金額220万円以上」かつ「年金収入+その他合計所得金額340万円以上」

現状では、大まかに1割負担の方が90%、2割負担7%、3割負担3%となっています。

介護は、在宅で行う場合と施設入居の場合があります。
まず在宅で介護を行う場合を見ていきましょう。

● 在宅サービスと地域密着型サービスでは要介護度に応じて1か月の支給限度額が決められています。これ以上のサービスを利用した場合、限度額を超えた部分は全額自己負担となります。
  身体の状態 支給限度額 自己負担分
(1割の場合)
要支援1 排泄や食事はほとんど自分でできるが、生活の一部に介助が必要な状態。 50,030円 5,003円
要支援2 食事、トイレなどはできるが入浴などに一部介護が必要な状態。状態の維持や改善が見込まれる。 104,730円 10,473円
要介護1 食事、トイレなどはできるが入浴などに一部介護が必要な状態。 166,920円 16,692円
要介護2 軽度の介護が必要。排泄、入浴などに一部もしくは全て介助が必要な状態。 196,160円 19,616円
要介護3 中程度の介護が必要。排泄、入浴、着替えについて全て介助が必要な状態で、認知症に伴う問題行動が見られる。 269,310円 26,931円
要介護4 重度の介護が必要。排泄、入浴、着替えについて全て介助が必要な状態で、認知症に伴う問題行動が一層増える。 308,060円 30,806円
要介護5 最重度の介護が必要。寝たきりの状態。生活全般にわたって全面的な介護が必要な状態。 360,650円 36,065円
※ 身体の状態はあくまでも目安です。 ※ 支給限度額は市町村によっては異なる場合があります。
● また、初期費用として、住宅改修を行った場合や福祉用具購入をした場合にも利用者負担限度額があります。住宅改修には事前の申請が必要であったり、福祉用具は購入業者や用具の種類等に制限がありますが、限度額内であれば自己負担1~3割で利用することができます。
住宅改修費 200,000 円(1住居・1人当たり)
福祉用具購入費(特定福祉用具販売) 100,000 円(年間)
● 自己負担額の軽減制度:高額介護サービス費

1ヶ月の介護サービスの1~3割負担の合計額が限度額を超えた場合、超えた分を申請すると払い戻されます。
限度額は所得によって区分がありますが、15,000円~44,400円です。

ただし、下記の費用は対象外になります。
・住宅改修費と福祉用具購入費の自己負担分
・介護保険施設(短期入所を含む)での食費・居住費など保険給付外のサービスにかかった費用
・在宅サービスの支給限度額を超え、全額自己負担になった分 等

● 自己負担額の軽減制度:高額医療合算介護サービス費

1年間の医療保険と介護保険の自己負担額を合算した場合の限度額があり、限度額を超えたうち介護保険にかかる部分について払い戻しを受けることができます。

限度額は所得や年齢によって異なり、申請が必要です。

≪ 計算例:要介護3の方 ≫

初期費用として、住宅改修 150,000円・福祉用具購入 50,000円
サービスの利用を月額280,000円
(イメージ:訪問介護を週5回、他デイケアなど週4回、月3日のショートステイ、福祉用具貸与を利用)
介護保険対象外のサービスを月額5,000円利用 の場合

    自己負担1割 自己負担2割
初期費用 合計:200,000円 20,000円 40,000円
サービス利用 限度額:269,310円 26,931円 53,862円
高額介護サービス払い戻し
(限度額44,400円の場合)
0円 △9,462円
支給限度額超過分 10,690円 10,690円
介護保険対象外 5,000円 5,000円
合計・利用開始月の費用 62,621円 100,090円
合計・以後の月額費用 42,621円 60,090円

多くの制度で、自己負担を軽減することができ、長期的に持続して利用できるよう工夫されています。しかし、介護保険法は過去複数回の法改正を行っており(例えば3割負担がはじまったのが2018年8月から)今後利用者の増加等で状況が変われば、更なる負担額や利用条件の変更があるかもしれません。

後半では、施設入居の場合のサービスの費用面での特徴や、実際の平均額などについて触れていきます。

【 参照 】
・ 生命保険文化センター「生活保障に関する調査」平成28年度
・ 厚生労働省|介護保険制度の概要「介護保険とは」・「平成29年介護保険法改正」
この記事を書いたのは・・・
ファイナンシャルプランナー 林 陽子 先生

・林FP事務所専属ライフプランナーとして活動中
・ライフプラン相談実績多数

《 保有資格 》
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
・AFP(日本FP協会)
・住宅ローンアドバイザー

林FP事務所 [ https://xn--vck0b9h632vz0vb.jp/ ]